Hello-Goodbye

地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もないパッとしない子

Eテレ「世界が読む村上春樹 〜境界を越える文学〜」メモ

ラジオ第2で放送されている「英語で読む村上春樹」という番組の特番がEテレで放送された。この番組について書いていたはてなブログを読んで興味を持ち、再放送を視聴。

世界が読む村上春樹 〜境界を越える文学〜 | NHK注目番組ナビ! | NHKオンライン

 

以下はそのメモ書き。

 

  • フランス版『ノルウェイの森』のタイトルは『不可能のバラード』。日本の小説なのにビートルズの曲は合わないので差し替えてしまった。スペイン語版は『TOKIO BLUES』、ドイツ語版は『直子のほほえみ』。それぞれの国で小説が受け入れやすいように編集者が考えているため、タイトルが異なってくる。

 

  • アメリカでは村上春樹の人気の高さから「ハルキ・ムラカミ」という日系アメリカ人が執筆しているものだと勘違いしている人が多い。人気のきっかけとなったのは20年ほど前に「ザ・ニューヨーカー」に掲載された短編『象の消滅』。小説に登場する楽曲が生演奏される朗読劇が上演されたりなどしている。

 

  • ロシアでは「ムラカミ」という名前のロックバンドがある。村上作品の会話に出てくるような歌詞が特徴。「ムラカミが私たちのことを書いてくれている」などといった歌詞も。

 

  • 一方、ヨーロッパにおける日本文学のイメージとしては、1990年代は日本人作家といえば三島由紀夫谷崎潤一郎川端康成といった純文学であり、「村上春樹」という名前だけで敬遠されていた。日本料理や文化がブームになった2000年代以降から手に取るようになった。小説の内容は新聞の書評で「催眠的」と評されている。

 

 

  • 台湾でのハルキ人気に火を付けたのは『ノルウェイの森』。東京の都会生活が当時の人々にとっては憧れだった。その後、『ノルウェイの森』といった村上作品のタイトルを付けたホテルやカフェが増えていった。人気の理由としては、性が直接的に描かれ、若者を惹きつけた点にある。それまでの台湾の小説では性描写は曖昧に書かれていた。台湾のカフェ「ノルウェイの森」オーナーの話によると、台湾人が村上春樹の小説を読むようになってから自宅でパスタやチーズを食べるようになったとのこと。それまで自宅でパスタを作って食べるような人はいなかった。

 

  • 東アジアでは『ノルウェイの森』の人気が圧倒的に高く、ヨーロッパではファンタジー要素が無いので村上らしくないといわれている。『ノルウェイの森』は大学生の物語なので、日本と大学の雰囲気が似ているアジアで人気があるのではないか。ヨーロッパの大学とは雰囲気が違うので受け入れられにくい。

 

  • 村上作品の特徴は大きく分けるとリアリズム(例:『ノルウェイの森』)とファンタジー(例:『羊をめぐる冒険』)の2つ。地域によってどちらが人気があるのか違う。
  • 東アジア:森高羊低 ヨーロッパ:森低羊高

 

  • ハルキファンのフランス人学生はジブリ作品も好き。ジブリのようなファンタジー世界を作品に求めている。

 

  • フランスでは空前の日本ブーム。村上作品はマンガ、アニメ、妖怪のような現実と空想が入り混じったおとぎ話である。フランス人にとってはこれが「日本らしさ」を感じる要因となっている。

 

  • 現代日本文学の受容という点についてはフランスがトップ。村上春樹だけでなく小川洋子の作品もほとんどが翻訳されている。最近では高橋源一郎の小説も翻訳された。綿矢りささんによれば、フランスでサイン会をした際にどんな情報なのか事前情報が無くても手に取ってくれることが印象的だったらしい。海外文学という意識を持っておらず、多文化だという意識の壁が無い。

 

  • フランス人にとっての村上春樹の魅力とは、白黒がはっきりとしていない中国の「陰陽」の考え方に通じるところ。何もかもが曖昧でいいこともあれば悪いこともあるという人間論を越えようとしているように見える。『羊をめぐる冒険』に登場するドーナツ*1の一文のような分かりやすいメタファーが哲学的かつ仏教的である。

 

  • 村上春樹文学を読み解くキーワード
  • コリーヌ・アトランさん(日本文学翻訳家。『ねじまき鳥クロニクル』をフランス語に翻訳した)「解けない謎」:どんな作品でも謎がある
  • 綿矢りささん(作家)「人類共通の原風景」:懐かしい世界、見たことがないけれど知っている世界を描いている
  • 沼野充義先生(東京大学教授)「絶妙のブレンド」:東洋と西洋の要素のブレンドが天才的

 

 

台湾のカフェで若者たちが読書会を開いて気に入った文章をノートに書き写す姿や、フランスの大学での村上春樹に関する講義の様子を見ていたら、日本より海外のほうが熱狂的なファンが多いんじゃないかと思った。特に台湾での人気は凄まじいものがある気が。『海辺のカフカ』というカフェでは作品に出てくる料理を提供しているそう。各国でそれぞれタイトルが違うことからも分かるように、きっと翻訳された本文も微妙にニュアンスが異なっているだろうし、そういうことを考えれば原文のまま読めるというのは日本のハルキファンにとっては幸せなことだ。

 

綿矢りささんかわいかったです。

*1:「しかしまあ、これはどうでもいいことだ。ドーナツの穴と同じことだ。ドーナツの穴を空白として捉えるか、あるいは存在として捉えるかはあくまで形而上的な問題であって、それでドーナツの味が変わるわけではないのだ。」(『羊をめぐる冒険』より)